マルコの部屋(フットボール四方山話)

田村修一(マルコ)

Nifty-Serve FSWFフォーラム18番会議室より引用
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00036/00037 MHF03057 マルコ アメリカ便り
(18) 96/07/30 14:38

 どうも、皆さん。

 日本が準決勝に進出したらどうしよう。帰りの飛行機チケットは格安のFIXなので
、3決や決勝まで日程を延ばしたら捨てなければいけない。困ったよーんと途方に暮れ
ていたら、問題も自然解消してホッとしているマルコです。
 今日はバーミンガムからアセンズに移動しました。アセンズはホテルを取るのが難し
いと言われたのですが、後藤さんから借りたホテルリストを見ながら片っ端から電話を
かけまくったら、何とか取れました。最悪は野宿でもいいとか思ってたのですが、何と
かなるもんですね。
 試合のあるサンフォード・スタジアムから徒歩で15分と、ホテルのロケーションは悪
くないのですが、なにせアセンズという街が、鉄冷えのバーミンガム以上に田舎です。
雰囲気的にはパロ・アルト(サンフランシスコ郊外、スタンフォード・スタジアムがあ
る)みたいなもんでしょうか。そういやあ、ローズボウルのあるパサデナも田舎だった
なあ…。
 20人乗りの飛行機が降りた空港の建物が、グランパスのクラブハウスよりも小さい。
レッズの大原グラウンドのグラブハウスぐらいの大きさです。で、もっとビックリした
のが、空港からホテルまで乗っけていってくれたシャトルのドライバーが、元プロレス
ラーの“クレイジー”ルーク・グラハムだったことです。どうでもいいけど。88年に引
退して、生まれ故郷のこの街で静かに暮らしているそうです。ちなみにグラハム氏によ
れば、あのアブドーラ・ザ・ブッチャーも引退して、今はアトランタに住んでいるそう
です。さらにどうでもいいけど。

 ブラジル戦は、まさに「世紀の棚ぼた」でしたね。笑いが止まらないとはこのとこで
す。ハンガリーのアンタル・ドゥナイ監督が「100年に1度あるかないかのこと」と
言っていましたが、こんなことって本当にあるんですね。
 今の日本のレベルと実力を考えれば、ブラジル以外の国となら、どこが相手でもそこ
そこの勝負はできる。FIFAランキング25位というのは、決してフロックでも何でも
ない。そこまでは来ています。ただ、ブラジルは特別な存在と思っていただけに、その
ブラジルにこんな形で勝ってしまっては、感激よりも「おっ、やりいっ」てなもんで、
凄く得した気分というところでしょうか。
 次にブラジルに勝つときは、棚ぼたではなく実力で勝ちたいですね。それもアンブロ
カップの時に見たような、震えのくるような、マジで鳥肌のたったブラジル代表を相手
に、です。
 例えば加茂周という人は、今は(正確に言えば去年のダイナスティカップ以降)プレ
スに対して極めて素っ気ないです。「皆さん、好き勝手に書いて下さい」とか「間違っ
たことをどんどん書いてください」などということも、われわれの前で平気で言います
。だからこっちも好き勝手を書いています。試合後の記者会見も大抵は仏頂面で、それ
は日本が勝った試合でも、あまり変わりません(キリンカップのときは、さすがに興奮
をおさえきれない様子でしたが)。
 ところがですなあ。元来の人の良さが出るというか、気持ちを隠しきれないというか
、こみ上げてくる喜びを必死に堪えようとして、頬のあたりがヒクヒクしていることが
よくあります。苦虫を潰したような顔が、思わず崩れそうになるのです。それを努めて
冷静に保とうとして、無理につまらなそうな顔を作るのですが、これがまた不自然なの
なんのって…。思わず、「加茂さん、本当は嬉しいんでしょう」と突っ込みたくなるの
ですが、さすがに公式の会見の場なのでまだやったことはありません。
 何が言いたいかといえば、そういう喜びというか笑いというか、今もブラジル戦を思
い出すたびに、そんな笑みが自然と浮かんでしまうのです。札束がまとめて空から降っ
てくることなんて、あり得ないと思っていたのですが、そういうこともあるんですなあ
、はははははっ。ちょっと不謹慎かな。
 まあ、引き分けが妥当なところだったと思います。それだけディフェンスは頑張りま
したし、幸運にも助けられましたが、無失点に抑えたのは、彼らの実力でしたから。服
部を含めたディフェンス陣は、本当によくやったと思います。
 でもあの得点は…。90年イタリア・ワールドカップのブラジル・アルゼンチン戦を思
い出した人も多かったのではないでしょうか。あのときは、マラドーナは意図してブラ
ジルディフェンダー全員の注意を引きつけ、あのパスをカニージャに送りました。マラ
ドーナの最初で最後の必殺の一撃(しかも右足のパスだった)に、ブラジルのディフェ
ンダーたちは虚を突かれました。もっとも警戒していたマラドーナに、そのときだけし
てやられたのです。
 では、路木のクロスは、そんな意図した一撃だったのでしょうか。本人に聞かないと
わかりませんが、多分違うでしょう。しかし、ハンガリー戦でも同じミスを犯すという
のは、やっぱり今回のブラジルはお笑いですね。どんなに強いとはいっても、若いチー
ムの脆さが出たということなのでしょうか。でもアウダイールなんだよなあ…。
 それで思い出すのは、去年のインターコンチネンタルカップ(サウジラアビア)での
アルゼンチンです。あのときのアルゼンチンは、文句なしに大会のベストチームだった
と思いますが、決勝ではデンマークにまんまとしてやられました。期待のオルテガも、
いいところが全くありませんでした。そのオルテガが、アルゼンチンの10番として今大
会は大活躍しているのを見るにつけて、彼の精神的な成長を感じます。

 そこで前園です。私は西野監督に関しては、まあ、あんなもんだろうと思っていまし
たから、不満はありますが予想以上でも予想以下でもなかった。しかし、彼がサイド攻
撃を重視すると常々言いつづけていたのは、いったい何だったんでしょうね。単にサイ
ドに優秀な人材が欲しい、という以上の意味ではなかったように思います。でなければ
ナイジェリア戦で、あんなに中央攻撃を選手にさせるがままにして、何度もピンチを招
くことはなかったでしょうから。まあ、それはいい。
 前園には、申し訳ありませんがちょっと失望しました。それはプレイの面と、プレイ
以外の面でです。聞くところによると、本人も相当落ち込んでいるとのことです。自ら
の個人技(ドリブルとパスワーク)が、ブラジルとナイジェリアを相手に全く通用しな
かったからだそうです。
 彼のプレイが通用しなかったのは事実です。でも弁解の余地というか、酌量の余地も
あります。それは最初にボールを持ったときから、難しいプレイばかりをしようとする
。しかもゴール前ではなく、攻撃の起点としてボールに触れたときからです。周囲のサ
ポートがほとんどなかった状況では、そうせざるを得なかったという言い方も出来るで
しょうが、そんな攻撃は明らかに無理があります。しかも個人のテクニックとスキルに
優れたブラジル人やナイジェリア人を相手にではなおさらです。
 いろいろなオプションのある中で、彼が個人技を発揮するのであれば、前園もある程
度は(ことによったらかなり)やれたでしょう。でもそういう戦い方を日本はしなかっ
た。これはベンチの問題であると同時に、選手自身の問題でもあります。たとえカンウ
ターアタックが中心だったとしても、コレクティブなプレイ(というかコンビネーショ
ン)をしようと思えばいくらでも出来るわけですから。
 そしてショックを受けて記者会見を拒否したのであれば、それは非難されても仕方の
ないことです。キャプテンがチームを代表して、試合後に記者に対してコメントをする
のはイロハのイです。前園クンは、実はマレーシアでも同じようなことがありました(
状況はちょっと違いますが)。西野さんもそのときはよくわかっていなくて、われわれ
の要望を聞いて貰えなかったのですが、彼は当時はアマチュアですから、百歩譲ればそ
れもまあ仕方のないことかも知れません。でも前園クンは立派なプロなんですから、や
はりプロとしてプレスに対応して欲しいと思います。もしスペインに行っていても、彼
は同じような対応をスペインのプレスに対してするつもりだったのでしょうか。
 今回、私はその場には居あわせませんでしたが、去年のダイナスティカップで、韓国
のビショベッツ監督が、やはり試合後の記者会見をすっぽかしたことがありました。そ
の時は本当に頭に来て、韓国のプレスオフィサーに猛烈に抗議した覚えがあります(そ
のプレスオフィサーとは、その後、すごく仲良くなりましたが)。
 一部では前園クンの態度を評価する向きもあるようですが、私はちょっと賛成しかね
ます。例えば彼にカントナのような唯我独尊の道を歩む覚悟があるならば、それはひと
つの行き方でしょうが、そこまでの自覚と確固とした価値観が、彼にあるようにも思え
ないからです。
 皆さんにも考えてほしいのは、選手や監督とプレスとは、対等の緊張関係を保って初
めて健全なフットボールの発展がある、ということです。あるプロスポーツの某2世選
手は、彼を囲む記者たちの前で、「こいつらハエみたいなもんだから」ということを平
然と言っている。そして記者の側も、そう言われてもただ黙っている。そんな状況がフ
ットボールでも生じるようになったらもうお終いです。
 フットボールの記者と選手や協会の関係は、他のスポーツに比べるとかなり健全な方
だと思います。でも海外に比べると、まだまだプレスの力は弱いし、その分、足りない
ところも多いでしょう。これはわれわれの今後の課題だと思っています。

 長くなったので、続きは稿を改めます。


                            マルコ