ソフトウェア技術者としての生活を行いながら、減量を行うことは極めて難しい。 本稿では、103kgから87kgへ16kgの減量に成功した筆者の経験をもとに、 ソフトウェア技術者の減量について考察する。
ソフトウェア技術者の労働は、肉体的にはキーボードを叩く程度の軽作業であり、 一方、頭脳的には極めて集中を要する重労働で疲労感が激しい。 また、ソフトウェア技術者の生活は不規則であり、 ストレスによる欲求不満・不規則な食事・深夜からの宴会などで、 ソフトウェア技術者の肥満が目立つようになってきた。 この結果、肝臓障害・糖尿病・心臓病といった成人病発病の確率が増し、 21世紀の情報処理健康保健の財政を圧迫する要因になろうとしている。 プログラマー30才定年説は否定されたが、 プログラマー30才肥満説はその信憑性をますます増している、と言ってよい。
筆者の場合、「9 to 5 」というソフトウェア技術者としての平均的就業を行っており、 また地方・中国・米国などへの出張が多く、 地方地酒シリーズ・中国老酒シリーズ・米国バーボンシリーズと銘打った宴会が続き、 生活が不規則になりがちであった。 蛇足であるが、「9 to 5」は9PM to 5AMの意味である。結果として、社会人生活のはじめに84kgであった体重は、 16年経過した今年1月には103kgになり、 心房細動・脂肪肝による肝臓障害・糖尿病・高尿酸・腰椎ヘルニアを持つ 成人病の百貨店となっていた。 サッカー禁止・飲酒禁止・カフェイン禁止・タバコ禁止という、 日本においてほとんど実現不可能な制約条件も付いている。
死ぬことは恐れないものの、このままでいくと、体はボロボロになるものの、 なかなか死なずに失明・脳梗塞・通風などを招くため、減量を開始することにした。
通常の減量は、医師の指導のもとに行う。個々の食料のカロリーを記憶し、 食事の材料などを計測し、1日1200キロカロリーしか摂取しないというかたちを取る。 要するに元UNIXユーザー会の会長がおっしゃったように 「減量は頭でするもんだ」ということになる。
ソフトウェア技術者の場合、いそがしいため医師の指導を頻繁に受けるのは困難である。 また、さほど頭がよくない場合が多いので、個々の食料のカロリーを記憶するのは困難である。 また、外食・宴会が多く食事材料の計測も困難である。 さらに、筆者の場合サッカーが本職のため、 1日1200キロカロリーの摂取で済ますのはほとんど実現困難と思われた。
そこで、筆者の場合、医師の指導を受けずに1日2000キロカロリーの摂取で済ますことにした。 これで減らなければまた考えようという、 よくある「できなければまた先で考えよう」式プロトタイピングを採用したわけである。
ソフトウェア開発と同じように減量も「分析」が大事である。 そこでまず、自分の性格分析を行った。 筆者の性格は、以下のように特徴づけられる。
この性格を考慮した場合、従来世間一般に喧伝されている減量法は合わないことが分かる。 例えば、地道な努力はできないのであるから、毎日食べたもののカロリー計算をして、 ソフト工研の建物の階段を毎日登り降りする、といったことはできない。
また、一般的な減量法の中で誤解されている点を注意深く分析した。 例えば、「1日2食は太る」という誤解がある。 これは、正確に言えば「同じ量を食べるのなら、 1日2食は1日3食より太る」という定理の誤用である。 筆者ら「ふくよか」な、中国の基準で言うと美男・美女は 「1日3食で1日2食と同量しか食べないのは不可能」なのである。 さらに「階段の登り降りにエレベータを使わない」という減量法があるが、 これも心理学の研究成果から見ると「楽しくもない階段の登り降りを毎日できるなんて、 精神病の一種だ」ということになる。
そこで、以下の3大規律8項注意を考案した。
分析がユーザーの要求に合致していることを確認するのに、 プロトタイピングを行うことは、これまたソフトウェア開発の場合と同じである。 そこで、上記の戦略をプロトタイピングした結果、1ヶ月で3kgの減量に成功し、 糖尿病・高尿酸を示す数値が正常に戻った。 しかし、この時点で肝臓障害は依然残っていたため、 「宴会では水を飲んで盛り上がる」戦術を付け加えた。 この戦術は「心臓が悪いので酒が飲めません」という事実に基づく説得で周囲の理解を得た。
92年1月から9月までの9ヶ月間に体重は103kgから87kgへ16kg落ち、 サッカーの監督兼選手を引退した人間の中で、史上初めて選手として復活することができた。 このため、現在は目標を下方修正し、70kg台を狙っている。
なお、一番の困難は、梅雨および真夏時の徒歩作戦挫折の可能性であることが分かった。 筆者はこの期間、主としてTシャツで過ごしたため乗り切れたが、背広族には苛酷な試練となろう。 「人間やめますか、会社やめますか」の選択が迫られることになる。
プロトタイピングに協力して、水だけでカラオケ10曲歌った筆者に、 いやな顔もせずおごって下さった大阪大学の中野先生、 および常時筆者に減量を意識させて下さったソフトウェア技術者協会の中島さんに感謝する。 また、筆者に貴重なデータを提供して下さった、 村井(慶應大学)・鏡沼(オープン・テクノロジー)・ 酒匂寛・平野(以上SRA)・ 諏訪(野村総研)の諸氏にも感謝する。
なお、3大規律8項注意は、隣国の尊敬する最高指導者に捧げる。